表題作「蕎麦ときしめん」他6本からなる短編集。
読者はパスティーシュという言葉を知っているか?これはフランス語で模倣作品という意味である。じつは作者清水義範はこの言葉を知らなかった。知らずにパスティーシュしてしまったのだ。鬼才野坂昭如をして「とんでもない小説」と言わしめた、とんでもないパスティーシュの作品の数々、じっくりとお楽しみを。
蕎麦ときしめん
東京から名古屋に転勤してきたサラリーマンが書いた、名古屋人論を取りあげるという「設定」の小説。なるほど。読み始めた時はパスティーシュとかよく理解していなかったがそういうことか。それにしても、名古屋人が喜びそうな所をよくついてくる。
名古屋人はトヨタ以外の車に乗らないし、外車などは存在することも知らない。
名古屋の中心街で夜八時以降にうろついてる者は、必ず他所者やもしくは泥棒か不良なのである。この例外は、女子大小路という、東京の歌舞伎町に相当する歓楽街だけである。
中日の選手がエラーをした場合には、「たわけ、たわけ」の大合唱が起こり、相手チームのチャンスにはビールビン、石ころ、ういろう*1などを投げる。これが正しい名古屋人のマナーなのである。
まったくだ。
曰く「日本の名古屋は、世界の日本
」この作品は全ての名古屋人と、名古屋を愛するものへお薦めの作品である(俺は名古屋人じゃないけどな!)
商道をゆく
寝装品メーカー、株式会社タジマールの創立五〇周年記念社史を任された万年係長による社史全文(+追記)という設定。「なんだこりゃ」と思いながら読んでいた。……終始「なんだこりゃ」だった、なんだこりゃ。狙ってるの?
(追記)司馬遼太郎『街道をゆく』ってのがあるのか。なるほど。なるほど?
序文
「英語を話す国へ行って、水のことをウォーターなどといってはまるで通じない。水はワラ、と言うんだ」
という友人の言葉から、「英語の語源は日本語である」という新説を打ち出した新米言語学者による論文の「序文」が延々と。「name(名前)」という英語は日本のローマ字で書いた「namae」が元となってできた。などの例を記したその「英語語源日本語説」という本は爆発的なヒットとなり、言語学会にも影響を及ぼした。新説を批判する学者達との対立などがあり。「英語語源日本語説 改訂版」「英語語源日本語説 完全版」と次々と年代を進めるごとに刊行されていった中の「序文」を繋げてひとつのストーリーが出来るようになっている。
いや、なんとも面白い作品だった。序文としてそれっぽく出来てるうえに、受験生の使う「英単語の語呂合わせ」を真逆に取った新説がどんどん世の中にまかり通っていく様、学会のお偉い方とのくそ真面目な議論とやりとり、どれをとってもかなりシュールで思わず笑ってしまった。
猿蟹の賊
「さるかに合戦」を所々逸話を挟んで、くそ真面目な文章でノベライズにしておられる。母を殺された蟹平等の仇討ち。蜂や栗を援軍を取り付け、見事なまでの戦略で目的を達成した後には……
きしめんの逆襲
「蕎麦ときしめん」が名古屋人の怒りをかい、こんでもないことになってしまったぞ。という話。「毒入りういろう」うけた。
これのオチ後に、あとがきを読んで、そこに書かれていることに共感し、思わず感動してしまった。なるほど。パスティーシュ(模倣作品)の精神か。素晴らしい。「それっぽいものをでっち上げたい」まさに、俺がやりたかったこととガッチリ一致しているように思える。
清水先生曰く「模倣という作業によって、もとのものとは別種の、次元の異なる面白さが出てくる
」「まねることによって、人間が文章を書くという、そういう自体の中にある面白さを発見し再構成してみせる
」
名言である。読書(と日記)を初めてわずか半年、はやくも偉大なる作家との出会いを果たしてしまった。この本は俺のバイブルにすることにしよう(それにしても清水先生の著書は膨大で追いかけるのは大変そうだなぁ)最後に、この本を読みきっかけ手なった、はてな人力検索過去ログ「笑える小説を教えてください」の各位に感謝を!
【5】
- 作者: 清水義範
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1989/10/06
- メディア: 文庫
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*1:強調原文まま