舞城王太郎『みんな元気。』

図書館で調達。
短編集。やっぱり短編は良い。というか俺にあっている、主に集中力の関係で。

「みんな元気。」

主人公・琵琶の家族はアットホームで平凡な家庭だが、不思議なことに姉と妹は寝ている間に空中に浮いてしまうという能力(?)があった。しかし、ある日突然「雲の上の世界に住む一家」に妹を連れて行かれ、その「交換」で弟がやってくる。納得のいかない琵琶達は調布市内に発生した巨大竜巻にのって、雲の上に妹を連れ戻しに行った……愛と家族との物語。

この話面白いな。前半、というか序盤の象徴的なパート超えるとなんかガラッと空気変わるから、数ページの試し読みはあんま効果なさげ。空気は『阿修羅ガール』とか『ピコーン!』とかに近いかな、オンナ視点の語りがいちいち生々しい。終始、琵琶視点で語られるが、展開がとにかく速く、時間軸がしょっちゅう変わったり、知らない人物が出てきたかと思ったら、長ったらしい回想が始まって、そっからまた違うところに話は飛んで、そんで、戻ってこない、とか。ややこしい構成ではある。
あと何冊か読んでるうち、薄々思ってたんだけど、この人のギャグセンスはすさまじいな。支離滅裂風にした展開とか、出てくるアイテムとか、編集者の「座談会」あたりで見たけど、探偵の名前が「大爆笑カレー」とかいうネーミングセンスとか。意図してかしないでかは分からんけど、読んでる最中ばぶぶぶぶーって吹きそうになる。勘弁して。

「Dead for Good」

来た、暴力大王。

俺(主人公)は深夜コンビニのバイトを一緒にやっていた友達の兼松にある日突然サディズムされてカラダに障害を負った。俺は犬を探す。兼松は関係ない。

そんな話。
でも10数ページ、短いな。もうちょっと読みたかった。俺はあんま入り込めなかった、主に集中力の関係で。

「我が家のトトロ」

洒落になんねー暴力描写がいやってだけで舞城を避けてる人にはたぶん、これ。宮崎駿の『となりのトトロ』に登場する森の神トトロは、神ではあるが身近な存在である。舞城は「「トトロ」=「ありえないくらい凄い友達」=人間の希望の作り出す架空の存在」として、この物語では我が家に来たネコのレスカがトトロの役割をしている。暖かく、無邪気なぐらい前向きなお話。

「矢を止める五羽の梔鳥」

この話だけ調布じゃなくてお馴染み「西暁」が舞台。デビュー作『煙か土か食い物』以前の話で「野崎博司」も登場する。

西暁中学校の女児連続殺害と山火事が起こって大騒ぎだが、僕(主人公)は軽トラの荷台で山火事を眺めていた。

奇妙な夢の話から所々わけわからんかった。理解放棄で読んでたので、また読み直してみる。

スクールアタック・シンドローム

福井県立武生高校の生徒3人によって学校襲撃が行われ623人もが殺害された。この事件は世の中のトーンを変えた。学校、会社、家への襲撃ラッシュが始まる。暴力は伝染する。俺(主人公)はその時、仕事も辞めて自室のソファーで半年寝太郎で、酒を呑みながらずっとDVDを見ていた。でもこれじゃダメだって事で、友人へ電話して精神科を紹介してもらおうとしていたところに、スーツ姿の身長2メートルの男が襲撃にやってきたから返り討ちにして、耳を喰いちぎって、なぜか勢いのままその耳を飲み込んでしまった、生ミミガー

父と子の話ですな。今時こんな前向きに(まっすぐに)愛や家族を語る人も珍しい。で、舞城の場合はそれに暴力性もスパイスしてくる。
相変わらずまとまらないけど、この本に関してはそんな印象。どの短編も良かった。
次は古処センセイを読んでみたいと思います。

みんな元気。

みんな元気。