THE虎舞竜の「道化師(ピエロ)」は名曲だった

ぼくは小学生の頃、とにかく新譜CDを買うのが好きでした。同級生達がしているZOOやB'zのお話に聞き耳を立て、当時の行動に"音楽を聴く"という選択肢を持たなかった僕は何故だかJ-POPを聞くという行為自体がかっこいいもののように思えて少ないおこずかいの全額をはやりのCDを買うことに費やしていたのです。そして、WANDSの「時の扉」を買っては友人に自慢したりB'zの「ZERO」を買っては「俺ってセンスいい」と悦に入っていたのでした。しかも、僕が命をかけていたのは「誰よりも早く入手する」ということで人気アーティストの新譜の発売日に朝一から近所の書店へケッタ*1を飛ばして買いに行って、学校で友人に誇らしげに語るというタチの悪い事を繰り返していました。無論そこには音楽自体への興味は微塵もなくて「おまえ等のしらねーもんを俺はしってんやぞ!」というただのくだらない自己演出しかありませんでした、タチが悪い。そして更にこの子供の病的な衝動が悪化して、"新しいもの好きの自分"は発売日を1日でも過ぎてしまった新譜には魅力を感じず一切見向きもしなくなりました。
そんなときに出会ったのが高橋ジョージ率いる「THE虎舞竜」それまでロックにカテゴライズされている流行り歌を主に聴いていた僕はCDTVで流れるバラードナンバー「ロード」のPVに衝撃を受けました、僕と同世代の人なら多分どこかで見たことあるはず、モノクロのどこかの工場跡のような場所で壁にもたれ掛りながら白い息とツバを異常な量吐き出して熱唱するジョージ、ぉぉーかっきーぜジョージいかすぜジョージ、こいつは大物になる大ヒット曲をバカバカ飛ばすに違いない、演出の道具としての音楽ではなく本気で音楽自体に惚れ込んだ最初のバンドだ、と思っていました、僕はたちまち虜になり生涯を虎舞竜と共に過ごす事を決めたのでした。嫁入り道具の荷造りは済んだ、あとはジョージの求婚(プロポーズ)を待つだけだ!
ところが、これから大躍進を見せると思われた虎舞竜に意外な展開が訪れました。アレだけ大ヒットを飛ばした「ロード」を踏まえて数ヵ月後にリリースされたセカンドシングル「道化師(ピエロ)」が泣かず飛ばずで大コケしたのです。そして、当然発売日に購入して延々とリピートで聞いて「これは名曲だ」と思っていた僕に苛立ちが生じました。自分が良いと思っているものが世間で認められていないのがイヤでイヤでしょうがなかったのです。続く「一人ぼっちのクリスマス」「ロード第2章」も大してあたらず、このまま虎舞竜は「完全無欠のロックンローラー」のアラジン同じく音楽史の片隅にうずもれていってしまいます。
その頃にはぼくも完全に目を覚ましました。僕が追いかけていたのは結局"人気のあった虎舞竜"だったのであって工場跡でツバと吐息を吐いてない虎舞竜はそうたりえなかった。友人の前でジョージのことを自分のことかのように意気揚々と語っていた自分もセカンドシングルのタイトルと同じく「道化師(ピエロ)」だったのだなと悟りました。そしていつしか雑誌の新譜情報もチェックすることはなくなりCDを買うこともなくなりました。どうとち狂ったが知らないけど三船の娘と結婚してしまったロリコンジョージも虎舞竜も今ではくだらない笑い話のネタにしかならない。「ああ、いたよなねーそんなの」
あれから何年も語ったけど今でも僕が思い浮かべる虎舞竜は工場跡でツバと吐息を大量に吐き出してるし、セカンドシングルの「道化師(ピエロ)」も名曲だと思ってる。まぁその間には懲りずにビジュアル系バンドにはまったりするんだけどそれは別のお話で。

*1:【ケッタ】自転車。方言