ゴッゴル殺人事件①

「なにぃゴッゴルが死んだだとぉ」
捜査一課に鬼髭山警部の怒号が響き渡った。窓がキチキチ軋み、室内全体がカタカタと揺れだし僕のデスクの上に置いてあったお台場土産の「ワンピースサブレ」が落下し床に散らばった。サブレを広い集めつつ、気になって警部の方を見てみる。どうやら誰かと電話中のようだ。全く、それにしてもあの人は無駄に声がでかくて困ったモノだ。たかがゴッゴルが死んだぐらいで、この前だって僕がcoco壱番屋で買ってきたカレーが辛すぎるだの大声で文句を言ってきたし……
「って、ゴッゴルが死んだですって!?」
信じられない、まさかあのゴッゴルが死ぬなんて。例え包丁で刺しても、AK-47で近距離射撃しても、東尋坊お笑いウルトラクイズごっこをしたって死なないような男だというのに。事故だろうか?それとも殺された?もし殺されたとして、あのゴッゴルを殺せる人間がこの世にいるなんて到底思えない。何かの間違いなんじゃないだろうか。
「ピーカブー、出動だ」
電話を終え、こっちを振り返った警部が僕に言った。すぐ様全力疾走で部屋を出て行く。目的地も告げずに飛び出していった警部を追って僕もすぐ様後を追いかけた。なんだか悪い胸騒ぎがする。
僕の感はけっこう当る。般若先輩が死んだ時もそうだ。あの日、朝から僕は言いようのない気怠さを覚え同時に悪い胸騒ぎを感じていた。案の定署に出勤してみると、なんだかいつもと署内の様子が違った。鬼髭山警部は電話口で怒鳴り立て、僕を呼びつけ現場へと急行した。なんだ、まるっきり一緒の状況じゃないか。
繁華街をものすごいスピードで駆け抜ける警部に離されまいと僕も必死で足を動かす。しかし離される一方、なんだってあの人は定年前だというのにこんなに元気なんだ。と、どうやら目的地と思われる国道に面した雑居ビルの前で警部が急ブレーキをかけた。そんな猛スピードから急停止ができるのかといった具合で、かかとで地面をこすって減速、すごい砂煙だ、まるで海外アニメみたい、なにとジェリー、なにトゥーンキャラかよ。下らないことを考えてる間に僕も雑居ビルの前までたどり着く。こんなに走ったのは学生の時以来だ。
「ここだ」
息を切らせながら警部が指をさした方向を見てみる。雑居ビルの一階に構えた"そこ"はガラス張りの内装、オレンジ色の蛍光色でぼんやりと光る看板、どこかの家紋にデフォルメしたバッファローの雛形を合体させたようなマーク、見慣れたUの字形のカウンター。ここは……
「吉牛?」
僕の問いに答えるまでもなく警部はノシノシと店内へ入っていった。取り残された僕に10月にしては寒すぎる秋風が吹き付けられる。散々走って汗でびしょぬれになったシャツと身体が一気に冷やされる。このままここに立っていては凍え死んでしまう。僕も急いで店内へと向かった。
それにしても、なんだってゴッゴルは吉牛なんかで死んだんだ?